カロール再び再び 5

ある猛暑の7月にインドに行ったときの話です。

成田を飛び立ったエア・インディアは、夜遅くに熱気と湿気の立ちこめるデリーに到着しました。

目的地はアーメダバードという中都市の郊外にあるカロールという村なので、国内便に乗り換えなければなりません。僕はインディアン・エアラインのアーメダバード行きのチケットを持っていました。

ちなみにインディアン・エアラインとエア・インディアは国内便と国際便をそれぞれ担当している同じ会社です。そして唯一の国営航空会社で、それが理由で多くのインド人に不評というか、なんとなく好かれていないというか。

夜にデリーに着くともう国内便は飛んでいない時間なので、デリーで一泊します。タクシーで街に出て、手頃な宿を見つけたら食事だけして寝てしまいます。

翌朝は暗いうちからタクシーに乗り、昨夜来た道をまた空港へ。フライトの一時間以上前に到着。

ここまでは順調でした。

まずがらんと殺風景な空港でインディアン・エアラインのカウンターを探します。見つけた瞬間、異変に気づきました。そこだけ何十人もの人間がカウンターに押し寄せるように固まっていたのです。

群衆の最後尾に着き、そのうちのひとりに何事か、と尋ねると、短くひと言

ストライキ

と返ってきました。

(つづく)

 

写真に関しての覚え書き 2

前回書いた写真の整理と同時に、人生5度目となる暗室を作りました。

作れば作るほど暗室作りは上手くなってきていると思うのですが、悲しいかな近い将来確実に失われていくであろう技術ですよね。

そしてこの失われていくということはロマンチックでもノスタルジックでもなく、単に必要とするひとが減ってきているから、というところに少し寂しさを感じます。

おそらく暗室を作るのもこれで最後になるような気もします。


写真に関しての覚え書き

この正月休みに、今まで撮影してきた写真を大々的に整理しました。

ウェブサイトを根本から作り替える際に、過去のフィルムを一斉にデジタル化する必要に迫られたのです。

カメラを持ったばかりの頃のフィルムから最近までの写真が全て順不同に詰まった箱をひっくり返して、写真の海の中を泳いでいるような1週間を、年始早々過ごしていました。

昨年引っ越しをした際にも感じたことですが、長らく放置していたものを整理することは実際にやってみると想像以上にエネルギーを必要とするもので、まずどこから手をつけようかと考えるだけでも頭からケムリが出てきそうな状況でした。

それでも過去の写真を遡って一気に目を通す、というのは非常におもしろい経験で、一枚の写真を目にしたことがきっかけで、心の奥底に沈殿していたような記憶が次々に蘇る、ということが連続して起こります。

すべての写真はドキュメンタリーだ、という言葉がありますね。

写真というものは、その人間がその瞬間目の前にしていた光景の記録であり、同時に写真に写っていない、フレームの外側の記憶でもあります。

このフレームの外側の記憶というのはなかなか言語化して伝えるにむずかしい部分ではあると思うのですが、撮ってる本人にとっては意外と大事な部分だったりします。

あ、このときこんなこと考えていたんだよなとか、この写真撮ってる自分のうしろでは大勢の人が集まって見物してたな、とか、とうの昔に過ぎ去ってしまってふだんは意識の上に上がってくることのないこの種の記憶が、一枚の写真を見ることで続々とわき上がってきます。

そういった記憶や、もしくはそれにひと続きで繋がっているそのとき持った気持ち、感情なんかは、写真を見る側の人にとってはまったくとらえどころのない部分だったりするのでしょうが、それが伝わらないわけでは決してなく、実はそういった説明不可能な記憶や感情を、説明不可能なまま写真から受け取ってたりもします。そしてそういった説明不可能なものは言語化できない、もしくは非常にしにくいので、それでも人が説明しようとすると、「なんとなく」みたいな言葉になるわけです。

「きれいなんだけど、なんとなく怖い」「よくわかんない。でもなんとなく好き」写真を見た人がよく口にするそんな言葉の、なんとなく以降は、言語化できないものを受け取った証と、ぼくは受け止めています。そして人の心の奥深くに爪痕を残して行くような写真というのは、どんな衝撃スクープや超絶技法のライティングなどよりも、こういった「説明できないよくわからないもの」がはるかに雄弁に語っているものだったりします。

そんなことを、整理作業中に考えさせられたわけですが、こんな考え事をしながらしている整理がスムーズに進むわけがない、と我ながら思ったりもしていた、そんな正月です。

(つづく)

 

 

 

 

ウェブサイト

ず〜っとやろうやろう、と思っていたウェブサイトのリニューアルをしました。覗いてみてください!

2012

何となくバタバタしていて2日になっていしまいましたが、改めてあけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします!!

カロール再び再び 4


何度も訪れているにも関わらず、いつでもなにかしらボッタクリ事件に遭遇します。

今回はムンバイの国際空港から国内線空港への移動でやられました。まさにこの写真の端に写ってるドライバーです。

後で善人に確認したところ、通常の7倍以上払っていました。なおかつ空港間を結ぶシャトルバスを使えば無料だった、という事実に奥歯を強く噛み締めました。

事件はむこうからやってくる、というのがインドです。

カロール再び再び 3

インドの国内便、スパイスジェット。

以前インディアンエアーラインのストライキでひどい目に遭ってから、国内の移動はスパイスジェットが多いです。

LCCだけあって小さなペットボトルの水しか出ませんが、300ルピー(500円)払うとカレーが出てきます。

ムンバイ〜アーメダバード間(540km)往復で、請求が¥5,480。

別にスパイスジェットの回しものではありませんが、このロゴを見るとなんか嬉しくなってしまいます。

インドに来たな、と実感する瞬間です。

カロール再び再び 2

友人キレンの子供たち、シュリとお兄ちゃんのオム。

朝イチ、寝起きでこの表情。

カロール再び再び

先月またインドに行ってきました。

インド人の友人が住むカロールという村から、さらに田舎のサルディという村、その村役場のおじさん。

ちなみに友人の親戚が村長です。

一緒にいると村人が次々に相談を持ち込み、聖徳太子並みに大変そうです。

どういう人生を送ったら、こういう眼差しになるのだろうと思いながら。

昨日までの家

ウガーっと叫びたくなること5回。
もういいや、と全てを放擲寸前になること8回。
南国のビーチでのんびりする自分を白昼夢に見ること14回。
知恵熱2回。

その度に、自業自得だからと諦め、自分を奮い立たせること29度。
なんとかやっと、引っ越しが終わりました。

人生で最大級の断捨離を決行した結果、元の家の庭先にはあらゆる種類のゴミがうずたかく山盛りになりました。
8年という歳月の、整理してこなかったツケがここにきて一気にまわってきたのは間違いなく、それは必要なものよりも不必要なものに多く囲まれた生活をしていたことが一目瞭然となる光景でした。大きい収納があるっていうのは実はけっこう怖いことだったりします。

昨日は最後の作業、大家さん立ち合いの下、家の内部の最終確認でした。
大家さんはおじいちゃんと30代の息子さん二人でやってきて、懐かしそうに家を隅々まで見回ったあと、「長いあいだ住んでいただいてありがとうございました」と二人揃って深々とお辞儀をしてくれました。
もしかしたら家の使い方についてガミガミと小言を言われるかもしれない、と密かに緊張していた僕はその瞬間、肩の力がふっと抜けて、心臓をギュっとつかまれたような気分になりました。この大家さんで良かった。

全てを終えて帰り際、向かいの家のオヤジが表に出てきてひと言、
「もう会うこともねえやな」。
おいおい、あんたは下町のガンコオヤジでしょう、そんなに目を潤ませてこっちを見るのはやめてくれ。「いなくなってせいせいするわ」とか、そんなこと言うはずのオヤジでしょう。
うーん、まいった。
笑顔で感情を隠し、オヤジにも8年住んだ家にも深い深い一礼をして、出発。