11月
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シンプル・イズ・ベスト 3

posted on 11月 28th 2010 in with 0 Comments

のつづき)

ある夜、友人と飲んだ帰り道。

なぜだか急にもう少しだけ飲みたくなって、ひとりでバーに入った。

一人で特にすることもないので、それほどうまくもない酒を片手に”Best of Simple”を開いて読み始めた。その頃は本の半ばを少し超えたあたりを読んでいた。短い話をいくつか読んだところで、”Subway to Jamaica”という題名の一話に出会った。

その不思議な題名の話には、シンプルさんの甥が登場する。

若くて、やんちゃで、もうはっきりとは覚えていないがアーカンソーだかの田舎から出てきたばかりの甥っ子を、シンプルさんは居候として預かっている。ある夜その甥っ子がいつまでたっても帰って来ないので、やきもきしながらシンプルさんは待っている。やっと甥っ子が帰ってきた頃にはもう外は明け方で、このまま遊び人になってしまうのではないかと危惧したシンプルさんは彼を厳しく叱りつけることにする。甥っ子は怒ったおじさんに対して弁解する。遊んでいたことは遊んでいたが、こんな朝方まで遊んでいた訳じゃない。夜に遊びを切り上げて帰って来ようと地下鉄に乗った。いつものラインに乗ったはずなのに、何時間も乗り続けて気づいたらジャマイカという駅に着いていた、、、。

シンプルさんはその甥の言い訳を聞き、怒る気をなくした、と「私」に語る。こいつはただ電車を間違えただけなんだ。ジャマイカはEラインの終点じゃないか。そして甥に諭す。だから言っただろう、ハーレムに急いで帰ろうと思ったらA列車にのらなきゃなんないんだ。

それで終わり、ただそれだけの話だった。だが不思議なことに、読み終わった僕はつかみどころのない大きな高揚感を感じていた。今振り返っても、酔っぱらっていたからとしか考えられない意味不明の高揚感。僕は”Subway to Jamaica”を読み、なぜだか「デューク・エリントンは孤独ではなかった」と強く感じて、うれしさでいっぱいだったのだ。

につづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/