3月
05

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 2

posted on 3月 5th 2014 in 1995 with 23 Comments

この話は以下のリンクにまとめています
ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [前編]

 

 

 

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [後編]

 

 

 

A:Golmud B:Lhasa

A:ゴルムド B:ラサ

2

 

座席は隙間なく乗客で埋まっていた。

チベットに向かうバスにも関わらず、チベット人は全く乗っていないようだ。見渡したところ僕を除く全ての乗客が中国人のようだった。エンジン音だけが響き渡る無言の車内で、僕はまた浅い眠りに落ちていった。

 

どのくらい眠っていたのだろう、不規則なエンジンを吹かす音で目が覚めた。バスは停まっていて、さっきまでいたはずの乗客たちが車内から消えていた。運転手はハンドルを握り、アクセルを踏み込んでいる。

エンジン音にタイヤが空回りする音が混ざる。

前方の開いているドアから外に出る。汗ばんだ肌が冷たい外気に晒されて急に冷めてくる。乗客たちはバスの後方に集まりひとつの固まりになっていた。どうやらタイヤを砂に取られスタックしてしまったようだ。

僕もその固まりに加わった。タイミングを合わせて力を入れる。20回ほど繰り返し、バスはやっと砂を蹴って動き出した。

 

乗客たちは無言でバスに戻る。

旅が始まってまだ1日も過ぎていないのに、誰もが疲れて果てていた。僕も座席に戻り、堅いシートに身体を預けた。そしてまたバスは不規則に揺れ始めた。

 

外に出て冷えきった体がすぐにまた熱を帯びて来る。足下から熱気が上がって来ている。座席に座った僕の両足の間を銀色の鉄パイプが這っていて、出発してからずっと熱気を放っていた。どうやらこれが車内の暖房の役割を担っているようだ。鉄パイプはおそらくエンジンのどこかに直結していて、その熱をバス全体に拡散する仕組みになっているのだろう。

この暖房が、出発してからこのかた、暑すぎるのだ。

 

ゴルムドを出て早々、周りの乗客はコートを脱ぎシャツの腕をまくった。

僕も当然そうしたかった。またそうすべきだったのだが、出来ない理由がひとつあった。

ゴルムドのネズミ男と僕だけしか知らないルール。

あいつが大真面目で僕に課した厳格な掟。

そのうちのひとつが「コートを脱いではいけない」だったのだ。

僕は忠実にネズミ男とのルールを守り、どんなに暑かろうと分厚いそのコートを一度も脱いでいない。

半日経った頃には身体から饐えた匂いが漂い始めていた。

(つづく)

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石川拓也 写真家 2016年8月より高知県土佐町に在住。土佐町のウェブサイト「とさちょうものがたり」編集長。https://tosacho.com/

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