Yearly Archives: 2014

4月
20

神さまがくれた花 1

posted on 4月 20th 2014 in インド with 0 Comments

1
この広い世の中には、まれに「神さま」と呼ばれるものがいるらしい。

空の上にとか心の中にとかそういうあいまいな話ではない。出会える神さま。生き神。リビング・ゴッド。これはそういう生身の「神さま」に僕が出会った話。

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4月
19

ウェブサイトをリニューアルしました!

posted on 4月 19th 2014 in 毒にも薬にもならない with 0 Comments

こちらのブログではなくて、写真ウェブサイトをリニューアルしました。ぜひご覧になってください。See Website

ただこういったウェブサイトってのは(ブログも同じですが)、完成ってものがないんだな〜と実感したリニューアルでした。まだ載せれてない写真もあるし、今後もちょっとずつ増えていくだろうし。

すべてちょっとずつ、ちょっとずつです。

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ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 20

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4月
17

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 24

posted on 4月 17th 2014 in 1995 with 1 Comments

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きっと公安はそんな返事を予想していなかったはず。目の前の、自分を無視し続けた旅人がやっと発したひと言を理解するのにいささか手間取っているように、数秒そこだけ時間が止まったように固まった。

しばらくすると崩れかけた体勢を立て直し、公安がまた何かを言った。僕にはまたそれも理解できなかったのだが、声の調子から怒りのトーンが少しだけ落ち着いたことが聞き取れた。

さっきの続きのつもりはないのだが、本当に何を言っているのかわからないので首を傾げていると、公安は同じ言葉を何度か繰り返した。それでも僕が理解しない様子に業を煮やしたのか、背後に立った3人のうちのひとりが、「パスポート!!」と短く叫んだ。

そうか、そりゃそうだ。さっきから乗客の身分証を確認していたのだから。

シャツの内側に手を突っ込んで、そこからパスポートを取り出し、公安に渡す。珍しいものを見つけたようにそろそろと端をつまみ、公安はパスポートを点検しはじめた。後ろの3人も肩の上から覗き込む。

乗客たちと運転手はさっきからまったく声を出さない。静寂の中、公安がパスポートのページをめくる音だけが聞こえていた。

このとき僕のパスポートはほとんど白紙のはずだった。上海から旅を始めたのだから当然なのだが、どこにそんなに見るものがあるのだろうと僕が不思議に思うほど、公安たちはパスポートを仔細に点検していた。白紙のページもしげしげと丁寧にめくりながら見ているのだ。

もう僕はバスを降りるつもりだった。他の乗客に迷惑をかけないで、僕だけ降ろされるならそれでしかたない。そうこのときは思っていた。降りるために、お茶の瓶やら中国語の雑誌やら、持ち物をまとめておいたほうが良いのだろうか。そんな風に思っていた僕の目の前に、点検し終わったパスポートがグイっと差し出された。

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4月
16

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 23

posted on 4月 16th 2014 in 1995 with 2 Comments

 

23

公安と目が合う。何の表情も読み取れないその両目を見る。

僕の目から不安を読み取られていないだろうか。不審に思われていないだろうか。

公安が短く何かを言う。もちろん何を言っているのかわからない。低くて早口な中国語だった。

僕は何も答えないでそのまま公安を見ている。この期に及んで「口がきけない」という当初の設定を守ろうとしていた。もうそれ以外どうしたらいいかわからない。

もう一度、公安が言葉を繰り返す。さっきより明らかに声が大きい。前方に座っていた乗客たちの数人が僕の方を振り向くのが目の端に見えた。

前を向いたまま、僕は公安の言葉に何の反応も返さない。ちょっとだけ首を傾げて、もう何を言っているんだかわかりません、だって耳が聞こえないんだから、口がきけないんだから、その辺を察してくださいよ、という思いをその仕草に込めてみせた。

それで逃れられるなんてことも思っていないけれど、他に良い言い訳も用意できない。ひと言でも口に出したが最後、僕が中国人でないことは一瞬で見破られてしまう。

目の前の公安の無表情の目の奥に、苛立ちの色が浮かぶのが見えた。僕に何度も無視された格好になったこの若き地方官僚の顔面に、怒りの赤い血が猛スピードで昇ってくるのが見えた。

もうほとんど怒鳴り声になって、公安が早口の中国語でまくしたてた。ぎょっとしたように振り向く周囲の乗客たち。運転手もこちらを見ている。外にも怒声は届いたのだろう、3人の公安警官がドタドタと足音をさせてバスの中に入ってきて、応援するように最初のひとりの背後に立った。

最初の警官は怒声をさらに強め、顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。激高といっていいだろう。こめかみに指をあてている動作を見るところ、「お前バカか?!言っていること通じないのか?!」とそんなことを言っているはずだ。

おそらくこれ以上やっても出口はどこにもないだろう。僕は諦めた。ラサに行くのを諦めた。小屋に連れて行かれて取り調べを受けて、ゴルムドに返される。丸々バス全体が戻される、そんなことだけにはなってほしくないが、僕ひとりが返されるのはもうしょうがない。拘束されたりするんだろうか?それもこの際しょうがない。この状況では黙っていたって同じことだろう。

公安の目を見たまま、意を決してつたない中国語で「僕は日本人です(我是日本人)」と口にした。ちょっと震えてしまったかもしれない、と久しく耳にしていなかった自分の声を聞きながら思った。

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4月
15

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 22

posted on 4月 15th 2014 in 1995 with 11 Comments

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全くの無表情で、その公安は前部のドアから上がってきた。

疲れ切った乗客たち全員の前に立つと、変わらず無表情で視線をぐるりと一周させた。

公安と視線を合わせないように、僕はまた座席に深く身を沈めて下を向いた。それで僕の顔は向こうからは見えなくなったが、僕もまた公安の動きを見失った。ただ視覚以外の全感覚はこの公安に向けていた。

息苦しい時間は1分だったか2分だったか。公安が鋭くひと言、何かを言った。

僕は公安と目が合わないように気をつけながらそろそろと顔を上げ、座席の隙間から前を覗き見た。

公安の目の前に座る乗客の腕が伸びて、なにやら書類らしきものを公安に渡すのが見えた。書類を受け取り、それに目を落とす公安。しばらくして無言でそれを乗客に返す。そして隣の乗客の腕が伸びて、今度はもっと小さなカードのようなものを公安に渡すのが見えた。

身分証明書を確認している。

こんなことはこれまでの検問では一切なかった。ここまではしなかった。乗客全員やるのだろうか?ここまで順番が来るのだろうか?ここまで来たらどうしたら良いのだろうか?どうするのがベストなのだろうか?このチェックを逃れる方法はないのか?

完全にパニックになったものの、もう為す術もない。ただただこの公安の気まぐれで始まったようなこの身分証確認が、やはり気まぐれで僕の番が来る前に終わってほしいと祈らずにはいられない。というよりも祈ることしか今はできない。もうその順番は2列目を終え、徐々にこちらに近づいてきている。

真ん中の通路を挟んで乗客は左右3人ずつで、3列目4列目とゆっくりこちらに向けて近寄ってきている。5列目の一番右側に座っていた若い男が渡した書類を見て、公安が短く何かを言った。一瞬間を置いて、その若者は立ち上がり、憮然とした表情で荷物をまとめ前のドアから出て行った。書類に不備でもあったのだろうか?

公安は出て行く若者を見ている。どうしようもない不安に押しつぶされそうになりながら、僕も外に出た若者を目で追った。外の光の下で若者の顔は青白く見えた。バスの屋根に上がった運転手とひと言交わすと、ドスンと大きな音がした。若者の足下に目がけて彼の荷物が投げ下ろされた音だった。若者はその大きな袋を拾うと肩に担ぎ、外にいた公安警官の数人に促されてバスからゆっくり離れていき、小屋の中に入って見えなくなった。これからあの小屋の中で取り調べでも行われるのだろうか?

全く人ごとではない。若者に続いて僕もあの小屋に連れて行かれるのだろうか。

車内に目を戻すと、すぐ目の前に公安が立っていた。

そしてその無表情な細い目は僕の顔をじっと見ていた。

(つづく) 12345 本文を読む

4月
14

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 21

posted on 4月 14th 2014 in 1995 with 21 Comments

21

その間、公安の他の警官たちは面倒くさそうにバスの周りに群がり、車体の下部を覗き込んだりタイヤをトントンと叩いたりしていた。そんなところに何かが隠されているとでも言うのだろうか?

「ダライ・ラマの肖像画がチベットでは禁制品になっているのだ」

上海で出会ったイギリスの若者が言っていたことを憶い出した。チベット人の信仰の中心にいるダライ・ラマ。中国政府はありとあらゆる種類のダライ・ラマの肖像を一方的に禁止した。チベットに持ち込むことも、チベット人が持ち歩くことも、家や店に飾ることも。当局に見つかれば即没収。場合によっては逮捕拘束されるという。

それが理由でチベットではダライ・ラマの写真が非常に貴重なものになっている。チベット人は危険を冒しながらもそれらを隠し持つ。身の内に隠しながらチベット内を移動し、それらを必要としている辺境の民に配り歩く者もいる。そんな話を聞いたことがあった。

警官たちがそういったものを念頭に置いて検問していたのかどうかはわからない。ただ僕は、そういった日本の常識では計り知れない遠い場所までいつのまにか無自覚のまま、すでに来てしまっていたのだ。そして今さらながら、この瞬間になってやっと、ここがもうチベットで、ダライ・ラマの写真一枚で逮捕されかねない土地であることを自覚した始末だった。

周りの乗客も、運転手も公安警官も、誰ひとり僕がこうして人知れず不安におののいていることを見抜いてはいないだろう。くたびれてだらけきっている旅の中国人に見えているはずだ。

もう少しだけ、このまま前に行かせてほしい。

そしらぬ素振りをしながら心の内で強く念じていると、とうとう外では長い話が終わったようだ。公安が運転手に書類の束を投げ返すのが見えた。

運転手はそれを受け取ると、一言二言公安になにかをささやいた後、運転席に戻ってきた。

よし出発だ。

安堵したのもつかの間、僕の目に映ったのはドアから静かに入ってくる公安警官の姿だった。

(つづく)

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4月
13

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 20

posted on 4月 13th 2014 in 1995 with 16 Comments

20

薄暮の中、バスのヘッドライトが赤白に塗られたゲートを照らしていた。

これまでの検問ではただ小さな小屋とテーブルがあるだけだったので、ゲートの威圧感は僕をほとんど恐慌と言っていいほどの不安に巻き込んだ。

バスが停車した時にはゲートの周囲に誰も見当たらななかったのだが、1分も経たないうちにどこからか制服の集団があらわれた。およそ10人。

エンジンを止め、バスの運転手が緩慢な動作で外に出て行った。

集団の内からひとりの公安が進み出て、運転手となにごとかを話しはじめた。外の暗さもあって、制服の集団は全員が同じような顔に見えた。

しばらく話し込んだ後、運転手がバスに戻ってきて助手席の下から書類の束を取り出し、また公安の方へ戻っていった。日本で言えば車検証や営業許可証や、そんな類いの書類なのだろうか。

中国人はうるさいほど声が大きいはずなのに、このときはヒソヒソと声をひそめて話しているようだ。

まさか「外国人がひとり乗っている」なんて話していないよな。無関心を装いながら、内心では鼓動が早くなってきているのを感じた。早く、早く出発しようぜ、と祈るような気持ちで座席に沈み込んだ。

話し合いが長い。

(つづく)

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4月
12

ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 19

posted on 4月 12th 2014 in 1995 with 13 Comments

19

3日目の夜が深まるにつれ、時間の感覚が薄れていった。

出発前の東京で安物のタイメックスを買い左腕に着けていたのだが、巻き上げ式のこの腕時計をいつからか巻き忘れていた。針は4時過ぎを指したままピクリとも動かなくなっていて、この日の夕方まで動いていたことは知れるのだが、気がついた時にはもう正確な時間がわからなくなっていた。

バスの内部に時計はなかったし、もちろん誰かに尋ねるわけにもいかなかった。そうして窓の外に完全な夜の闇が降りてきた後は、僕は時間を計る術を完全に失ってしまった。

ウトウトと一瞬だか一時間だかわからないようなあいまいな眠りを繰り返していたので、ぼんやりと疲れ切った頭には、今が夜になったばかりなのか、夜更けなのか、それとももう夜明けが近いのか、そんな大まかな感覚さえ溶けて流れ出してしまったかのように捉えることができなくなっていた。

窓の外は相変わらず小さな光さえ見い出せない漆黒の闇で、まるでこのバスごと宇宙空間に放り出されたような不安が僕を包み込んだ。

喉が渇くと瓶を出しぬるいお茶を飲んだ。

腹はもう減っているのかどうかもよくわからなくなっていたが、ときどき乾パンをポケットから出してかじった。

そしてそんな動作さえ億劫に感じるほど疲れていた。ラサでなくてもいいから、ただただ横になってぐっすり眠りたいと思った。

狭く硬い座席の上で、できるだけ丸くなりながら少しでも眠ろうとした。

不快な振動とエンジン音、それに足下の熱いパイプが、相変わらず眠りに落ちることを邪魔した。イライラして目を開けると、窓の外に白んできた空が見えた。4日目の朝の始まりだった。そしてそのときバスが少しずつスピードを落としはじめた。

なにか嫌な予感がして、座席の上に座り直す。外を見る。いつの間にかバスは集落の中をゆっくり走っていた。

空が白んできたとはいってもまだ夜中だ。外に人は歩いていない。

ただ白い石でできた集落の真ん中を突っ切る細い道を、のろのろとバスは走り、そして大きなゲートで閉じられた検問の前で停車した。

(つづく)

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