Yearly Archives: 2014
8
自業自得。
そんな四字熟語が頭の中をふわふわ漂っていた。
その言葉をあえて向こうへ押しやって、僕はネズミ男とこのおんぼろバスとこの状況に心の中で文句を繰り返していた。
食事も満足にできないし、運転手にも他の乗客にも話しかけることすらできやしない。眠れないから、起きてるのか寝てるのかわからないぐらいヘトヘトだし、暖房が効きすぎて汗でベトベトで気持ち悪い。なのにこの分厚いコートを脱ぐことすらできない。なによりもこのまま進んでラサに到着できる保証もない。
なんだってこんな旅になってしまったんだ?
そしてそんな恨めしい考えがぐるぐると廻った末に、必ずたどり着く着地点。結局僕は、自分で選んでここにいる。
行けるとこまで行くしかないんだろう。
2日目の夕陽が白い山脈の向こうに沈む。
何度かチベット人の村を通り過ぎた。
窓から差し込む太陽光は一日中ジリジリと肌を焼き、影のような黒い疲労を僕に残した。
樹木が全く生えていない、月の表面のような山肌を、バスはずっと走り続けている。道もない山で、頼りは車の轍が示す道しるべ。
運転手は2人で交代しながら進んでいるので、バスは食事休憩以外は停車することもない。
バスが崖の上の細い道を走る。
車一台分の幅しかない道で、対向車が来たら一体どうするのか不思議に思う僕。もちろんそんなことはおかまいなしに進むバス。
ふと崖のはるか底を見ると、裏返しになった白いマイクロバスが目に入った。ここから見える車体の側面は傷だらけで、それはマイクロバスがこの崖を転がり落ちたことを示している。
白い車は夕陽に染まって橙色のように見えた。
それは大きな幸運ゆえか、それともある種の采配でも存在するのか、バスは相当なスピードを出しながらも、一台の対向車に遭うこともなく、そして崖底に転がり落ちるわけでもなく崖を走りきり、平野の入り口に差し掛かっていた。
視界のすべてが暗闇に呑み込まれようとしていたちょうどその時、バスが徐々に速度を落としはじめた。
ふと顔を上げ、フロントガラスの向こうを見ると、点のような白い光がぐるぐると回っている。誰かが前方で、停まれ、と合図を送っていた。
(つづく)
1234
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7
僕はコートのポケットから薄っぺらい雑誌を取り出し、ページに目を落とした。
内容まで薄そうな、中国語の芸能誌。
全く読めないその雑誌を、僕はずっと読むフリを続けていた。その雑誌は周囲から僕を守る盾だった。読むフリをすることで僕は周囲にひとつのサインを送っていた。
僕は中国語はわかる、でも誰も話しかけるなよ、というサインだ。
その雑誌はこのバスに乗り込む直前、ネズミ男が僕に手渡したものだった。
「席に着いたらこれを読むフリをしていろ。周りの乗客とはひと言も話すな。運転手とも話すな。いいな。」ネズミ男の意図を要約すると、そういうことになる。
そして僕はその掟を忠実な下僕のように頑に守っている。
あと何日かかるかもわからないこのバスで、無言の行を貫き通すのはなかなか骨が折れる。しかし僕にはそのバカげた掟を守り通さなければいけない理由があった。
「守らなければラサには到着できない」
ネズミ男にそう告げられていたのだ。
(つづく) 1234
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この話は以下のリンクにまとめています
ラサに行ってもいいですか? | 偽装中国人バスの旅 [前編]
ラサに行ってもいいですか? | …
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インド人は自分の家屋に名前を付けて住むことが多いそうで、クルッティ・ラオ一家の家(中央)は「ラメーシュト」と命名されています。これは猿の姿をした神様「ハヌマーン」の別名だそう。上が現在の「ラメーシュト」。下はクルッティの結婚式の夜のラメーシュト。どちらも建設中の同じビルの屋上から撮影したもの。そして下が2011年末のラメーシュト。「バストゥ・プジャン」という落成の儀式にお呼ばれして行きました。家の周囲にはまだ何もなく、家も9割まで完成した時点のもの。庭にはまだ芝も植えられておらず。
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今日が今回の由布院滞在最終日です。明日には帰ります。
雪に閉ざされて、毎日屋内で仕事をしていました。観光もなにも今回はさっぱりな感じです。
長い間雲に隠れて見えなかった由布岳が、今日ははっきり見えました。
Today is the last day in Yufuin. Tomorrow I will fly to Tokyo.
From the next day I reached to …
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